僕からの溺愛特等席


 誤算だった。


 僕の最大の敵は兄だ。


頭も、ルックスも、コミュニケーション能力の高さも全て僕は兄に劣っている。


兄は誰とだって仲良くなれたし、人たらしだと思う。そんな兄に野間さんは告白されていたと聞けば、正気ではいられない。



フレンドリーな兄に比べて僕は無口で感情もあまり表に出るタイプではないから、


一緒にいる相手にいい印象を持ってもらえることが少ない。




涙で目が霞んだ。



また兄に負けるのか、と虚しくなった。


嫌だった。


譲れなかった。


譲れないのにどうしたらこの気持ちに落とし前がつくのか全く見当もつかない。



 頭がどうかしてしまいそうになった僕は、ついに「頭を冷やす」と言って溢れてくる涙を頑張って隠した。



洪水を起こしたように拭っても拭っても溢れてくる。



僕がまだ辛うじて正気を保っていられたのは彼女からはっきりした返事を聞いていなかったからかもしれない。



断られることを後回しにすることで辛うじて自我を保っていた。


< 111 / 131 >

この作品をシェア

pagetop