僕からの溺愛特等席
「ねえ、糸くん」
「……」
「泣かないの、私まだ何も言ってないじゃない」
彼女の穏やかな声も僕には酷く残酷に聞こえる。
「言わないで……ください」
「言い逃げなんてずるいと思うんだけど。せっかく告白の返事をしようと思ってるのに。いっつもからかったり、私のこと振り回して。許さないんだから」
焦って告白なんかするんじゃなかった。こんなの、地獄だ。
服の擦れる音で野間さんがしゃがんだのだと分かった。
僕の頭に小さい彼女の手が乗る。
「……私だって、糸くんが好きなのに」
僕は驚きで涙がピタリと止んだ。顔をあげると困った顔の野間さんと目が合い、聞き間違いかと思った。
「今、なんて」
「私も糸くんとお付き合いしたいなと思ってるのに、無理やり付き合ってもらいます。
みたいな雰囲気で進んでいくし、もうどうしようかと思ったんだけど」
僕の事が好き?
まさか、野間さんがあの優秀で人当たりのいい兄さんよりも僕をとったっていうのか。
そんなのはお伽噺か、もしくわ夢か、自分自身で現実をねじ曲げて都合よく解釈してしまっている気がしてならない。
でもこれが現実なら。