僕からの溺愛特等席
糸くんは生粋のミステリーファンで、それ以外には興味を示さず、
サークルには二十人ほど在籍しているが、彼が話しているところを見たことがない。
クールといえばそうなのだろうが、どうにも私から話しかける機会はなかった。
だから、糸くんから話しかけられた時は、飛び退くくらい驚いた。
でも、なんで話しかけられたかは………ちょっと思い出せない。
「お待たせしました。ウィンナー・コーヒーです」
そんな回想に浸っている間に出来たみたいだ。
糸くんは席の方に回ってきて、私の背後からカップを置いてくれた。
「ありがとう」
コーヒーの上にホイップクリームがたっぷり入っているウィンナー・コーヒーは、色んな楽しみ方ができる。
私はまず、ホイップクリームとコーヒーの上辺をスプーンで少しかき混ぜる。
そうすることで半分くらいまでは、甘いコーヒーを楽しむことができる。
そして半分を過ぎればホイップクリームが無くなり、ほろ苦く、けれども苦すぎないコーヒーが頂けるのだ。