僕からの溺愛特等席


考えを巡らせていたところに、糸くんが助け舟を出してくれた。


「前、来た時の忘れ物を開店前に取りに来てくれたんだよ」


「……ああ、なんだ。そうだったのか」



 どうやら納得してくれたみたいで、肩の力が抜けた。



私は糸くんに目配せをして、ありがとうと念じた。糸くんはそれに気づいて頬をゆるめる。


内緒の共有というのは、ちょっぴり子供の頃にもどったみたいでワクワクする。



「これですよね。忘れていったの」


 糸くんはレジの下の棚から、本を取り出して、ひょいっと私に渡してくれた。


「そうそう。これ! ありがとう」



 ここにきて、糸くんの機転の利いたアイデアと、本を忘れていった私に感謝する。


私のはただのヘマだけど。


でも危うく、関係ない人にまで私の失態を晒してしまうところだった。

「本当に良かった……」

本音を漏らしながら本をぎゅっと抱きしめる。


 喜びと安心が頂点に達して、感極まりながら受け取ったので、


当麻さんは「そんなに大事なものなのか」と呟いた。




 糸くんも、手元に手を当てて、微笑んでいる。

良かったですね忘れものが功を奏して、と言いたげな、からかうような笑みだったけど。



私はまた嬉しくなって、へらっと笑う。



そうそう。


彼はこうやって、よく笑うんですよ、と当麻さんに教えてあげたい思いだ。



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