僕からの溺愛特等席
「そんな、固まらないでよ」
ぎくっと、身体が跳ねる。運転席では旭さんが困ったように頭をかいている。
この様子から察するにどうやら、弟の恋路を邪魔したと怒っているわけではないようだ。
「緊張してるの?」
「いや、まあ………」
色んな意味で緊張していました。
赤信号で車が停車した。
「別に、送り狼になったりしないから」
「えっ!?」
私は首をぶんっと横に向ける。思ってもいなかった言葉にぎょっとする。
「え、?」旭さんもこちらを向いた。
私は急に恥ずかしくなった。旭さんも勘違いに気づいたようで。
「あ、ごめん。違うんだ、変な意味で言ったんじゃなくて、ああ」と顔を赤くしていたので、これは赤信号のせいかなと解釈することにした。
多分、私も同じうな顔になってたと思うから。
「これは何を言っても、変な意味にしかならないな」
旭さんは眉を下げて笑った。私もつられて笑う。
「いえ、私が変に緊張してたから。むしろ、今のでちょっと和みました」
私がまたあの店に訪れたことで、糸くんと優美さんとの間の妨げになったと、こっぴどく説教されるかもしれない、と懸念していたわけだけれど。
どうやら、旭さんは私が車で送られそのまま………。という成り行きに警戒して固まっているのだと勘違いしていたのだ。
考えていたことと斜め上の心配だった。なんと!恥ずかしい。
閉塞的な環境での極めてどうしようもない気まずさに、もう耐えられなくて適当な話題を振ろうとした時
タイミングよく信号が青に変わった。