僕からの溺愛特等席
「あっ、青になってます」
「え? ああ、ありがとう」
そう言って旭さんはハンドルをキュッとにぎって前を向いたが、時折、ちらちらと私の反応を伺うように見てくる。
私の家の前で車は停止した。
結局説教はされなかった。そもそも私の中の旭さんの印象が良くなかったのもあって、
私のフィルターを通して見る旭さんはどこか嫌な感じがしていたのだけれど、目の前で恥ずかしそうに、
視線を泳がせている所を見るとそんなに悪い人ではないのかもしれない。
「ここまで送ってくださって、ありがとうございます」
「いいよ、そんなの。それより、失礼なことを言った、ね」
「送り狼、ですか?」
私はからかうようにクスッと笑った。
「三春さんが、それで怯えてるんじゃないかって思ったから」
自分の車の中なのに、やけに居心地が悪そうにしている。
「知らない人の車には乗っちゃダメって教えられてますけど、旭さんは知ってる人だし。それで固まってたわけじゃないですよ」
今度は旭さんが笑った。固い印象が一気に崩れるような無邪気な笑顔だった。この兄弟の笑顔の破壊力は桁違いだ。
私は車から降りて車を見送ろうと立っていると、窓が下がって旭さんが顔を出した。
「三春さん」
「は、はい」どうしたのだろう。
「───糸より、俺にしときな」
「………え?」
旭さんは挨拶のような気軽さで言い残し、車は走り去っていった。