僕からの溺愛特等席
「やっぱり駄目ですか……?」
しょげた声を聞いた私は向こうには見えないのに、ぶるぶると首を振る。
「いやいや、そんなことないよ! 私でいいなら」
「じゃあ、決まりですね」
途端に晴れた声に変わって、明日の十時に迎えに行きます。と電話は切られた。
久しぶりにデートかあ。楽しみだなあ、でもなんで糸くんは私を誘ってくれたんだろう。疑問を持つと同時に「……あ」と閃いた。
冷や汗が流れる。
ちょっと待って、糸くんって両思いの相手がいたよね……。
付き合ってるとかそういうのは知らないけれど、好きな人がいるのは確かで、旭さんにも釘を刺されていたのに。
駄目じゃん!?
デートって言葉に浮かれて、完全に失念していた。
今から、やっぱり辞めますなんてのは流石に酷いし……。
頭を抱えながら、悶々と部屋の中を歩き回る。
そこで、ピンっと閃いた。
こうなってしまったら糸くん本人に聞けばいいんじゃないかな、
そうすれば心の引っ掛かりも取れるような感じがするし。
両想いの相手がいるのになんで私を誘ったの?ってさ。
なんだ、そうじゃん。
うんうんと、私は半ば無理やり納得して、次の日に備えることにした。