僕からの溺愛特等席
約束通り、糸くんは十時ぴったりに現れた。
車にもたれかかって私が降りてくるのを待っている姿は、不覚にも心が高鳴り、それと共に言い知れぬ不安もちょっとだけ顔を出す。
糸くんは私を見ると頬を緩め、助手席を開けてくれた。
「おはようございます」
「おはよう糸くん。……なんだか、お姫様になったみたいだなあ」
「お姫様?」
糸くんは可笑しそうに反芻した。
「え!?」
あれ、私声に出ていたんだろうか。
穴があったら入りたい思いに駆られて、あたふたしているとパンプスの踵が石によって滑った。
「うわあっ」
あ、やばい転ける────。目の前がスローモーションで流れた。
「野間さん!」
ふわっとコーヒーの香りに包まれた。
危機一髪、糸くんの腕が私の腰に回されしっかりと受け止められていた。