僕からの溺愛特等席
「冗談だと思ってるでしょ」
「そ、そうでしょ?」
「まあ………流石に店は閉めないですけど」
「だよねえ」
なんとも言えない気持ちが渦巻いて、中身のない返答をした。
けれども、そんな私をぎょっとさせるのが糸くんの得意技でもある。
彼は薄く笑ったあとこう言った。
「もし、野間さんが来てくれないなら……。ましてや兄のことが好きだとかぬかそうもんなら、あなたを僕の部屋に、一生、閉じ込めておこうかなと考えてます。……これは本気ですよ」
私は目をまん丸にさせて固まった。
それはそれは、物騒な話だ。笑い飛ばすにもそういう空気ではなくて、ただ仏像のようにじっと糸くんを見つめるにとどまった。
「今更、引いてるんですか? 遅いですって」
「引いてるというか、え? 今のも冗談って解釈で合ってるかな?」
後輩からの監禁まがいの発言を真に受ける人はいないだろう。
しかし、それと同じくらい今、目前の彼は危うくやりかねない予感もあった。
「この僕の表情を見て、よく冗談か……なんて言えましたね。その鈍感さと可愛らしさは褒めてあげますよ」
実際に頭をよしよしと撫でられる。
氷のように冷たい薄ら笑いを浮かべる糸くんはゾッとするほど綺麗だ。
視線を逸らすことも許されない絶対的な何かがあった。