『彼の匂いを消す方法』:検索
「彼ね、すごいヘビースモーカーで大学時代、初めて彼の家に泊まった次の日、セーターに煙草の匂いが染みついていてね。……嫌だったのにくすぐったかったの」
始発の電車に乗り込んだ時、自分から彼の煙草の匂いが漂ってきて、ああ私、彼と一晩過ごしたんだなって。
抱きしめてもらったんだな。恋をして、その恋が実ったんだなって幸せな余韻が残っていて幸せだった。
そして私も私の家族も煙草を吸わないと知り、うちの親に好印象を与えたいとすごく軽い理由であっさり煙草をやめてくれた。
彼の誠実な行動に、『結婚』を意識し始めた二十六の秋に差し掛かろうとしているこの時期。
「ふむ。貴方のやさしさに気づかない最低な人だったんですね」
「最低でその上、見かけは優しいし格好いいし、何でもうんうんって私の意見聞くだけでさ」
「中身が空っぽなのか」
「……そうだったら好きになんてならなかった」
大学が同じで、私は教育学部初等科で彼は経済学科。
たまたまサークルの合同飲み会で席が隣になっただけ。
二つ年上で、すでに内定をもらっていた彼は余裕も感じられたし、同じサークルの男性たちが絡んでくるのに対し、紳士的で落ち着いていた。
そこで私が強いお酒を薦められたのに気づいて、さり気なくジュースに変えてくれたのがきっかけ。
その時頼んだジュースは、アップルジュースだった。子ども扱いされた気がして落ち込んだのをはっきり覚えている。
その後、サークルの先輩からストーカー紛いのアプローチに怯えていたところを助けてもらった。
『俺でいいなら、恋人のふりをしましょうか』
真面目な彼は、先輩に「俺が彼氏だけど」と宣言して私に近づくなって言ってくれた。