『彼の匂いを消す方法』:検索
戻ってきた彼が爽やかに笑っていたから、私は無意識に彼の手を握った。
するとじんわり湿っていて、本当は怖かったんじゃないかなって。
それなのに私のために、サークルで何回か隣で話しただけの私に。
『……あなたの』
大きな彼の手を、両手で握りしめながら私から告白した。
『あなたの本当の恋人には、どうしたらなれますか』
彼は数秒後、息を飲んで返事をくれた。
『貴方がサークルに顔を出さなくなってから、とても寂しかった』と。
それから私が小児科の保育士として激務でなかなか会えない時、時間をみつけては会いに来てくれた。忙しくて疲れていた日も、彼の笑顔を見たら元気になれたのに。
「……一日、彼が帰ってこない部屋で待ってたの。でも帰ってこなかった」
冷蔵庫を開けたら私が一昨日作って冷蔵庫に入れていた作り置きがそのままになっていた。限界だった。足元から崩れていく。
このままでは幸せな思い出まで辛く苦しくなりそうで逃げたかった。
どうしていいか迷っていた私は、知り合いの彼の同僚にさり気なく忙しいのかと聞いたら『あいつなら、定時で帰った』と言われた。
このまま、優しかった彼のぬくもりだけを思い出に残して、今の辛い気持ちや行き場のない感情は、彼の部屋に残しておきたかった。
「幸せな時間の方が多かったから、もうその思い出だけでいい。彼の――」