『彼の匂いを消す方法』:検索
彼の匂いを消す方法を教えてほしい。
体に染みついた彼への思いを断ち切らせてほしい。
彼を大嫌いになれないならば、どうか匂いだけでも忘れさせて。
「今までありがとう。今までうざくてごめんね」
もう一杯お酒を頼もうとしたが涙で滲んでメニューが読めなかった。
再び、自称イケメン御曹司は私からメニューを奪うと勝手にジュースを頼んだ。
勝手に頼んだのは、あの日と同じアップルジュース。
「これはイケメン御曹司の勝手な妄想なんだけど、彼はきっと忙しくても疲れていても、洗濯物より食事より君の隣に居たかったんじゃないかな」
「……迷惑だったってこと?」
「嬉しいけど、でも食事を作ってくれたり洗濯したり、アイロンかけたら泊ってほしかった。そのための合鍵じゃないかな」
「……じゃあなんで作り置きが、一昨日のままだったの」
「昨日と一昨日は親の体調が悪くて実家に戻っていて携帯の充電が切れてしまって、やっと新幹線で充電できた。申し訳なかった」
「定時で帰ってどこ行ってたの。自称イケメン御曹司」
自称イケメン御曹司の方は見ない。まだ見ない。見てやらない。
自称だし。イケメンだし、御曹司だし。全部嘘だから。
だから私は彼を見てやらない。
ご両親の体調が悪かったなんて、今まで聞いたことないから信じてあげられない。
涙でぼやけていた携帯画面。
『彼の匂いを消す方法』
あとは検索ボタンに触れるだけなのに。
消したい匂いが隣から溢れてくるの。