愛を孕む~御曹司の迸る激情~

「蕪木。」

「.......。」

「蕪木っ。」

「え?」


 試飲会2日目。会場で準備を手伝っていると、須崎くんの声にハッとして、顔を上げた。

「どうした?さっきから同じとこばっか拭いてるけど。」

 そう言いながら、不思議そうに私の手元を指差した。

「あ。」

 私も自分の手元に目を向けると、無心で同じ机ばかり拭いていたことに気がつき、思わずそう声を漏らした。

「珍しいじゃん。なんかあった?」

 すると、心配そうに覗き込んでくる須崎くん。私は、慌てて笑顔を繕った。


 昨日、須崎くんの誘いを断って、成宮さんとの食事に行った。須崎くんには食事へ行く前、LINEを送りひたすら謝った。

 彼は、成宮さんの誘いじゃ仕方ないと許してくれたけど、正直心が痛かった。本当は成宮さんと行くよりも、須崎くんと行きたかった。気は使わないし、久しぶりに色々と話もしたかったし、二人だけで食事なんて今まで一度もなかった気がするから。

 それに、何より、あんな事は起こらなかったはずだから。だから、どんなに考えても、彼と食事に行けば良かったと後悔した。


「蕪木??」

 でも、ドタキャンする形になってしまった手前、相談なんてできなくて、心配かけまいと作り笑いを浮かべた。

「なんでもない!なんか、寝不足かも!」

 そして私はそう言って、笑い飛ばした。

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