愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「本気ですか?個展に来てる人を、うちに呼び込むって。」
私は成宮さんの横でそう声を荒げると、頭を抱える。
個展会場へは、車で10分。訳もわからずタクシーに乗せられた私と須崎くんは、突拍子もない彼の考えに驚きを隠せなかった。
なぜなら彼は、個展に来るお客さんに協力を仰ぎ、うちの試飲会へ来てもらおうと言い出したから。
「さっき自分で言ったんだろ?ヨーコ・ハセガワが初めてデザインした、ワインボトル。個展にくるぐらいのファンなら、興味持って来てくれるだろうって。」
「いや言いましたけど、直接お客さんを取りに行こうとまでは言ってないですよ。」
私はムキになってそう言うと、思わずため息をついた。
食中毒にあった人には失礼だけれど、試飲会のことだけを考えれば、正直ツアーの中止は残念だった。
個展によって集まった多くの人たちは、うちの商品にも無条件に興味をもってくれる最高のターゲット。無差別に選ぶよりも、ずっと効果的だった。
だけど、だからって他の会場に来ているお客さんを、横取りするような真似を勧めたつもりはない。
私は心の中でそう思いながら、成宮さんとのいざこざなんてすっかり頭から抜けてしまっていた。
すると、彼はパソコンを私の膝の上にのせると、メールの画面を見せながら、にんまりと笑って言った。
「大丈夫。言ったろ?協力してもらうんだって。取りに行くわけじゃないよ。」
「え?」
「もう、館長にも個展の責任者にも話は通してある。」