愛を孕む~御曹司の迸る激情~
あまりの手際の良さに、私は思わず呆気にとられていた。
各方面に許可を取り、個展のチケットも再入場できるように手を回す。私のあんな思いつきの発言から、この短時間でここまで形にしてしまうなんて純粋に凄いと思った。
「会場についたら、すでに試飲会に参加してくれるって人たちが集まってる。ツアーで使うはずだったバスを手配してあるから、須崎はそっちを頼む。」
「分かりました。」
「蕪木は、これから来る人たちへの対応宜しく。俺は館長への挨拶とか、今後の対応の打ち合わせに行ってくるから。」
「あ、はい。」
そうして私たちは成宮さんの指示の元、誘導に説明にと走り回り、なんとか開場の時間に間に合わせることができた。
そしてこの作戦は実を結び、試飲会場は多くの人で賑わいを見せた。
その光景に、パリからきたスポンサーも大いに満足してくれて、トラブルに見舞われたイベントも、結果大成功のうちに幕を下ろしたのだった。
「蕪木。」
会場の片付けを終え、ロビーのソファで一息ついていると、成宮さんがコーヒーの缶を差し出しながらそう声をかけてきた。
「ありがとうございます。」
素直にコーヒーを受け取りながらも、私は目を合わせることができずにいた。
仕事をしている時はなんとか忘れていたけれど、こういうなんでもない時には、やっぱり思い出してしまうあの出来事。私は缶を握り締めたまま、俯いていた。