愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「詩音?」
「へっ.....?」
「どうした?なんかあった?」
あるホテルの最上階に入る高級レストラン。私は祐一を前に、目の前のステーキにナイフを入れながら、繰り返し同じところを切り続けていた。
「あ、ううん!これ、本当に美味しいね。」
私は必死に笑顔を作りながら、誤魔化すようにお肉を口いっぱいに頬張った。
あの日、屋上に取り残された後、意を決して出社した。成宮さんとは、できるだけ話さないように気をつけながらも、やはり周りの目は痛かった。
でも、彼は「俺じゃないから、そんな噂信じるな」と噂を一蹴し、笑い飛ばしていた。だから、私も合わせて堂々とすることにした。
そうしたら、なんとか同じ部署の人達の前ではやり過ごすことができた。
そして、あれから1週間。あの日言われた成宮さんの言葉が頭の片隅で引っかかり、祐一の前でもどこか考えてしまう。
『あいつの別の顔、まだ知らないんだろ?』
繰り返し頭の中で再生されるその言葉は、とても厄介だった。
私は、目の前で安心したようににっこりと笑う祐一を見つめながら、モヤモヤとするばかり。
「はい、じゃあこれ。」
一人で考え込んでいると、突然テーブルに置かれた小さな紙袋。私は目を丸くして、ゆっくりとその袋を掴んだ。