愛を孕む~御曹司の迸る激情~
気持ちを落ち着かせてから帰ろうと、みんなは一緒に残ってくれて、1時間ほどいただろうか。
会社にはあまり人も残っていなくて、ちょうど良い時間。そうして帰ろうとしていた時だった。
ビルを出た途端、向かいの道路に見覚えのある車が止まっているのが見えた。一瞬ドキッとして、絡めていたひな子の腕を振り解き、一人足早に立ち去ろうとした。
「詩音!!!」
しかし、後ろから大きな声で呼び止められ、ビクッと立ち止まる。私はその声で確信した。
「祐一.....。」
振り返ると、間違ってはいなかった。車を置いて立つ、祐一の姿があった。
大声で私の名前を叫んだせいで、周りの人は何事かとざわつき始める。でも、そんなことも気にならないくらいに、頭が真っ白になった。
再会は、1ヶ月ぶり。
「詩音、行こう。」
私を連れ出そうとするひな子たちの声も、私の耳には届いていない。彼の顔を見た瞬間、急に空気が薄くなったように呼吸が苦しくなった。
「お前、何しにきたんだよ!」
そして、覚えているのは、その声が最後。
だんだんと遠くなる意識の中で、今にも殴りかかりそうな勢いで近寄って行った須崎くんの姿を見た。その先はどうなったか分からない。
そのまま、目の前が真っ暗になった。