愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 少しの沈黙の後、私から離れていった成宮さん。急に寂しさを覚えた私は顔を上げると、頭にそっと手が置かれた。

「じゃあ、俺は外で待ってるから。」

「え......」

「帰れるようになったら連絡して。車で来たから、一緒に帰ろう。」

 すると、優しく微笑んだ彼。なぜだろう。ただそれだけの言葉なのに、どこかホッとしている自分がいた。

「わかった。」

 不思議だ。彼の存在がそうさせているのか。ただ「一緒に帰ろう」と言われただけなのに、そんな言葉が妙に暖かく感じた。


 成宮さんは、そのあとすぐ診察室を出て行った。いなくなっても、頭にはまだ彼の手の温もりが残っている。

 私は、飼い主に置いていかれた犬のように、ゆっくりと閉まっていく扉をじっと見つめていた。


「詩音?」

 ボーッとしていると、南に呼ばれハッとした。

「あ、ごめん...」

「成宮さんと、やり直すの?」

 すると、びっくりするほどに直球の言葉が飛んできた。

「えっと.....」

 でも、私はすぐに反応できず、一瞬考え込んでしまう。そのままうーんと唸るように声を出した後、静かに答えた。

「分からない。」

 そして、なんとなく頭をぽりぽりとかきながら、ハハッと笑って誤魔化す。


 でも、本当に分からなかった。

 どうしたいのか、自分でもよく分からなかった。


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