愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「そういえば、あの日。車で詩音と一緒にいた人....、彼だよね。蒼くん、だっけ。」
苦笑いを浮かべながらそう言う祐一の声で、私は我に返った。
「びっくりしてたら、隣で百合に言われてさ。あれ、私の弟だよって。昔、二人は付き合ってたんだって聞いた。」
百合......。あまりにも自然とそう口にした名前に、私は一瞬心がざわついた。
「あいつ、全部知ってたんだ。俺の彼女が、自分の弟の元カノだって。多分、詩音とカフェで鉢合わせた時からずっと。てか、そんな偶然あるんだな。もう、訳わかんなくて、パニックで.....」
そうしてペラペラと話し続けていると、一瞬こちらを見て、ハッとしたように急に口籠った。
「あ、いや、ごめん.......」
浮気相手の名前を、知らず知らずのうちに口にしていたことに気がついたのか。彼女のことばかりを話す無神経さに気づいたのか。それとも、私の表情が曇ったのに気づいたのか。
口元に手をやりながら、焦った顔を見せる彼がどんな心境かは分からない。
でも、そんな祐一を見ていたら、なんだか急にいろんなことがバカバカしく思えてきて、勝手にため息が出た。
「ううん、今更もういい......」
私は、疲れたように冷たくそう言い放っていた。