愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「おかーさん。なんでこの鐘さん、ゴーンゴーンてかいてあるの?幼稚園の鐘さんは、チリンチリンて鳴るんだよ?」
「お城の鐘さんは大きいの。幼稚園の鐘さんは、きっと小さいでしょ?詩音もまだ、こんなに小さいんだもん。」
「じゃあ、大きくなったらこの音きける?」
「そうだね。幸せな鐘さんは、きっとゴーンゴーンって鳴るんだよ?」
「じゃあ、大きくなったら幸せになる!」
その頃の私はまだ子供で.....。幸せになったらこの音が聞けるって、幸せになる理由はそんな単純なものだった。
でも、大人になるといろんなことが見えてきて、幸せになるのもそう簡単なことじゃない。何が幸せなのかすら、分からなくなってくる。
亡くなる前、お母さんに言われたこと。
「大人になったら、運命の相手が迎えにきてくれる。この人だっていう鐘の音が、きっと聞こえてくる。だから、待つのよ。あなたの心が、ちゃんとそれを教えてくれるから。」
それが覚えている限り、母との最後の記憶。
正直あれは、まだ王子様もお姫様も、絵本の世界も信じていた純粋な子供への言葉。鐘の音なんて、現実に聞こえてくるはずがない。今考えれば、笑ってしまうような子供騙しのセリフ。
でも、私にとっては、それがお母さんとの最後の記憶だった。