愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 数時間後。今は、ランチに出るエレベーターの中。


「蕪木さん、大丈夫ですって。噂なんて新しいネタが降ってくれば、みんなそっちに飛びつくもんです。そのうち、すぐ忘れちゃいますよ。」

 後から来た紗和ちゃんも一緒に乗り込むと、彼女は私を励まそうと必死になってそう言った。


「新しいネタって?」

「んー、爆発的なネタがドーンとこう。」

 しかし、私の不意打ちの返しに、顔を引きつらせながら言う紗和ちゃん。励ましに根拠のなさを感じ、思わずこちらまで顔が引きつり、そしてまたため息をついた。

「まあ、こっちの爆弾のが大きすぎて、社内不倫でもない限り無理だねー。」

「ちょっと、ひな子さん!追い討ちかけてどうするんですか!」

 すると、容赦ないひな子の言葉にとどめを刺され、私はあたふたする紗和ちゃんの背中にもたれかかった。


 エレベーターの扉が開き、3人で降りていく。ボーッと歩き出すと、なんだか体が重かった。

「あっ、ごめん。」

 なにも気づかずにボーッと歩き出していた私。

「ここ2階だ。押し間違えた。」

 ひな子の言葉に顔を上げると、たしかにいつもと景色が違っている。いい加減慣れているはずの場所なのに、全く気づかなかった。

「もう、降りちゃったじゃないですか。このまま階段で行っちゃいましょ。」


 結局、吹き抜けの中二階に向かって、螺旋階段を降りた。

 何気ない会話。私を元気づけようと笑い合う二人。そのおかげで、私も少しずつ気持ちが軽くなってきたところ......のはずだった。


 見てしまった。両脇にいる彼女たちは、まだ気付いていない。私が見る目線の先。

 一階のフロントに、祐一の姿があることを――。










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