愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「何度か打ち合わせでうちの会社きてたから、そのうちにね。」
私は曖昧にそう言いながら、笑顔で席を立つ。休憩室にコーヒーをとりに行きながら、思わず出会った当初のことをふと思い出していた。
たしか、担当になったのは入社3年目になりたての頃。
流通業界として小売事業国内1位の業績を誇り、長年うちの会社とも取引をしていた高瀬グループ。数年前からインターネットメディア事業にも参入したことで、私たち広報としてもお付き合いがあった。私は担当になってから、主任のサブとして会社にも何度か足を運んだ。
でも、その時にはすでに祐一との付き合いは始まっていて、担当になったのもたまたま。実際に出会ったのは、もう少し前のことになる。
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記憶は遡り、入社2年目の春。やっと会社に慣れてきた頃、祐一と出会った。
初めての出会いは、資料倉庫から持ち出した大量のファイルを抱えていた時。彼が突然声をかけてきた。
「どこまで持ってくの?」
「え?」
私はファイルの隙間から顔を出すと、見たことのない顔に思わず動きを止めた。
「えっと、広報課に.....。」
そう言いながら、社員証を下げていないことに気づき、すぐにうちの会社の人ではないことが分かった。でも、彼は私からファイルを半分取り上げると、ニコッと笑って言った。
「半分持つよ。俺もそっちの方行くから。」