愛を孕む~御曹司の迸る激情~

「じゃあ、行こうか。」

 食事を終えると、祐一が私に車のキーを差し出し、そう言って立ち上がった。

「車戻ってて。」

「うん、わかった。」

 彼がレジに向かい、私も鞄を手にお店を出ようと立ち上がった。その時、向こうの方から祐一の声が聞こえた。

「あっ、すみません...」

 その声に反応して顔を上げると、誰かとぶつかったようで一緒に黒いショートヘアの女性が見えた。しかし、なぜか見つめあったまま立ち尽くす二人。その光景に、胸騒ぎがした。


 そのうちに女性の方が、彼の肩にそっと手を置き、言った。

「祐。」

 彼女の口から出た言葉を、私は聞き逃さなかった。思わず固まり、全身から血の気がひくのを感じた。祐一は、そっと肩に置かれた手をどけて、にっこりと笑う。


 私は咄嗟に目を逸らし、慌ててお店から出た。

 そして車の助手席に座り、目をつぶって呼吸を整えた。まだ、心臓の鼓動が速い。私は胸を押さえながら、恐る恐る店内を見た。

 すると、お店の窓ガラスからは、二人が話している姿が見えて、ちらちらと周りを気にしながら様子がおかしかった。


 祐一のことを、「祐」と嬉しそうに呼んだ女性。とても親そうに見えた。

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