愛を孕む~御曹司の迸る激情~
すると、顎に手を当て目線を上に上げた紗和ちゃん。
「んーと、ちょっと待ってくださいね?たしかー、なるーなるー.....」
眉をひそめながら、必死に思い出そうと悩む。私は彼女の言いかけた名前を聞いて、恐る恐る小さく呟いてみた。
「......成宮...さん。」
その瞬間、ハッとしたように目を大きく見開いた。
「そうです!成宮さんだ!」
紗和ちゃんの言葉に、一瞬頭がクラッとした。だんだんとボーッとしてくる頭をおさえながら、目を泳がせる。
今日は朝から高瀬グループの件でバタバタとしていて、メールを見る暇さえなかった。だから、重要なものだけを見て、あとは全部後回しにしようと開かなかった。
それは人事のメールも同様で...。それなのにまさか、そんな大事な内容が隠されていたなんて思いもしなかった。
一人混乱している中、紗和ちゃんがジッとこちらを見て言う。
「蕪木さん、知ってるんですか?その成宮さんって人。」
私はその質問に、咄嗟に作り笑いを浮かべて首を横に振った。
この場では、真実を言う心の余裕なんて残っていなかった。
祐一とのことで、色々あったこのタイミング。まさか、そんな渦中に彼が帰ってくるなんて。もはや、帰ってこないとさえ思っていた。それが、どうして今になって、急に.....
私は心の中でそう思いながら動揺し、混乱していた。
だって、知っているもなにも、彼は......
私の"恋人だった人"だから。