愛を孕む~御曹司の迸る激情~
しかし、まだ何か言いたげな表情で立ち尽くす彼。一瞬、気づかないふりをしようかと迷いながらも、やっぱり気になってしまった。
「なに?」
「ん?いや、ほら、今日。」
すると、言葉を濁しながら、例の部屋へちらちらと視線を送って訴えてくる彼。きっと、成宮さんのこと。すぐにピンときた私は、分かりやすく動揺している彼を察し、苦笑いを浮かべる。
須崎くんは、私と彼の関係を知っている一人。
「大丈夫?」
「うん、まあね。」
そう言いながらも、遠くから聞こえてくる成宮さんの声。条件反射のように反応してしまう体。
「ごめん、じゃあまた。」
やはりここにいるのはなんとなく気まずく、曖昧な会話のまま、その場を立ち去ってしまった。心配そうに後をついてくる紗和ちゃんをよそに、私はただただ無心で歩き続けた。
「蕪木さん。やっぱり、なんかあるんじゃないですか?」
用事を済ませ、広報室に戻っている最中、紗和ちゃんが言いづらそうに口を開いた。
「ん、なんで?」
「だって、成宮さんの話してから、蕪木さん......ちょっと変です。さすがにこれだけ一緒にいたら分かりますよ。」
私はその言葉に、なんと返したらいいか分からなかった。
成宮さんとのことはもう心の奥底に封印したい、遠い昔のこと。安易に掘り返したいことではなかった。でも、動揺は隠しきれず、こうして余計に心配をかけてしまうのも事実。
頭をぐるぐると悩ませ黙りこんだまま、広報室に戻り扉を開けた。