愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「あー、蕪木さん!やっと戻ってきた。」
部屋に入った瞬間、奥から課長の声がした。その声に反応して顔を上げると、思わず固まった。
課長の隣にはなぜか、成宮さんが立っていたから――
驚きと動揺で、心臓が波打つのを感じる。課長に手招きされ、仕方なく近づきながらも、どんどん呼吸は浅くなっていった。
デスクの前にくると、一度成宮さんと目が合った。慌てて目を逸らし、彼とは少し距離をとって立つ。
「蕪木さん。突然で悪いんだけど、今抱えてる高瀬グループの件、他の人に振ってくれるかな。」
「え......?」
突然のことに、そう声が漏れた。
祐一の会社の担当を外れる――。それは、3年目の時から主任とずっと二人で担当してきた、広報課の中でも大きな仕事だった。
祐一の婚約者だとバレたことか。高瀬社長が挨拶にきたことか。それとも.......。理由を考えた時、あらゆる可能性が一瞬のうちに頭を駆け巡った。
すると、私の顔を見て慌てた課長がまた口を開く。
「いや、その件から外れろと言ってるわけじゃなくてね?ただ、ちょっと他の仕事を頼みたくて。」
そう言うと、課長は成宮さんと目配せをし、ニヤニヤとしながら話し出した。
「実は、パリに支社を作ることが決まってね。その立ち上げメンバーに、蕪木さんがほしいと彼が言ってくれたんだ。」
驚きを隠せなかった。ずっと避けていたはずが、驚きのあまり、思わず成宮さんの顔を見上げてしまう。
新しい海外支社の立ち上げメンバー。そうそう選ばれるものではない。4年目の私が、そんな大きな仕事に抜擢されるなんて、どれだけ凄いことか。分からないわけではなかった。