愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 彼から連絡がきたのは、それからしばらくしてからのこと。届いたメッセージは一言。


『今までありがとう。』


 別れの言葉だった。私はその瞬間、あの時のプロポーズの意味が分かった気がした。

 きっとあれは、私たちに残された最後のチャンスだった。彼は、私と仕事を天秤にかけ、仕事を選んだ。そして、私を置いていなくなった。


 彼から送られてきたたった一行の文で、私たちが過ごしてきた4年間にピリオドが打たれた。


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 私はあの頃、もうボロボロだった。突然訳もわからず捨てられて、何か自分に悪いところがあったんじゃないかと、毎日考えていた。でも、どんなに考えても分からなくて、私たちはずっと順調だと思っていたから。


 グラスに入っていたギムレットを飲み干し、ふぅっと息をはいた。

「戻ってこないんじゃ、なかったんですか...?」

 私は、彼がロンドンへ発った後、日本には戻らないつもりで行ったと、そう聞かされていた。彼が教育担当として可愛がっていた、須崎くんから。


 成宮さんは入社3年目にして、その実績を買われて、ロンドン支社の大型プロジェクトのメンバーに選ばれた。そして、彼は自分の意思でロンドン行きを決め、いなくなった。

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