愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 当時、何も知らずにいた私は、須崎くんからその全てを聞かされた。

 何年かかるかも分からないプロジェクトへの参加を、上司からずっと打診されていたこと。海外で働くのが夢で、ずっと行きたいと思っていたこと。でも、私のことで引っかかって、決めかねていたこと。

 そして最後はもう、私とも別れるつもりでロンドン行きを決めたということ。


 私は知らなかった彼の想いを聞いて、須崎くんの前で夜通し泣き明かしたのを覚えている。

 あの時のことを思い出すと、急に恥ずかしくなる。友人の前であそこまで泣きじゃくったのは、初めてだったと思うから。

 でも、須崎くんにはすごく感謝している。

 一番辛かった時に支えてくれた人。あの時、泣く場所があったから、前に進もうと前向きになれた。きっと、祐一と付き合う気になれたのもそのおかげだと思う。


「俺も、こんなに早く戻ってくるとは思ってなかったよ。プロジェクト自体、五年も十年もかかるって言われてたし、ずっとその仕事に専念するつもりでいたから。」

 すると、突然口を開いた成宮さん。グラスに入った氷をカラカラと回しながら、そう言った。

「多分、今回のパリ支社立ち上げの話がなきゃ、帰ってこなかったと思う。」

 そして、彼はそう言い切った。


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