愛を孕む~御曹司の迸る激情~
すると、遠い目をしていた彼が私を見つめて言った。
「あのまま別れてなかったら、きっと寂しい思いばっかさせてただろうな。」
「え...?」
「いつ帰ってくるのかも分からない、将来すら見えない俺についてきて、詩音の人生を台無しにさせたくなかった。詩音を縛り付けるようなまねは、したくなかった。」
あの時に聞けなかった彼の想い。
「俺のわがままに、詩音を巻き込みたくなかった。」
別れたのは私のため......。
ずっと、ただ捨てられたんだとばかり思っていた。仕事に集中したくて、私が邪魔になったんじゃないかと考えたこともあった。けれど、そうじゃなかった。
彼は、彼なりに考えてくれていた。
このまま付き合い続けても、今までのような彼氏ではいられないから。ほったらかしになったと感じたあの時よりも、もっと私に寂しい思いをさせると思ったから。
日本に残していってもそうなるなら、私を自由にした方がいいんだと、別れを決意した。
彼の想いが初めて分かり、体の力がスッと抜けた気がした。だけど、思わず呟いた言葉。
「そんなの勝手だよ。」
何も言わずに消えたこと。あんな一文で終わらせたこと。相談もなしに、一人でロンドン行きを決めたこと。まだ何も言えていない。
私のことを思ってくれたんだとしたら、巻き込みたくないなんて、そんな寂しいことは言ってほしくなかった。