愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「なんか楽しそうだね。」
駅に向かいながら、ひな子は度々紗和ちゃんに抱きつき、きゃっきゃと騒いでいる。彼女たちの少し後ろを歩く私たちは、顔を見合わせ微笑ましく笑った。
ちょうどその時、目の前で横断歩道の信号が赤に変わった。
「そういえば、ひな子。成宮さんとのこと、凄く心配してた。」
隣で一緒に立ち止まった南。先に渡り終え、どんどん離れていくひな子たちを見ながら、不意にそう言ってきた。
「ほら、今人事にいるでしょ。少し前から、成宮さんが戻ってくること知ってたみたいで。あの性格だから、本当は言いたかっただろうけど。」
「そうだったんだ。」
「人事異動のメールきたでしょ?そしたらすぐLINEきて、どうしようって。詳しい事情は知らなかったけど、ボロボロになってた詩音のことは、私たちもよく見てたから。心配はした。」
知らないところで、みんなが心配してくれていた。嬉しいと同時に、気を使わせてしまったことに少し申し訳なさを感じ、少々複雑な心境でもあった。
「あ、今日の会もね、ひな子がやろうって言い出して。そろそろ気持ちの整理もできて、話せる頃じゃないかってさ。」
そう言う南は私にニコッと笑いかけると、信号が青に変わったのを見て歩き出す。
「あっ、南.......」
私も慌てて後を追うように歩き出すと、小走りで近づいていく。
「心配してくれて、ありがとね。」
そして、風になびく髪を耳にかけながら、そう言って笑顔を作った。