愛を孕む~御曹司の迸る激情~

 廊下の端にある自動販売機の前。ガコンという音と共に出てきたミルクティーのボトルを藤野に手渡し、そのまま長椅子に腰掛けた。


「昨日、飲み会どうだった?」

 引き止めたはいいものの何を言おうか悩み、咄嗟に思い出した昨日の話題を上げた。

 牧田が意気込んで話していた『蕪木を励ます会』。男子禁制だと言われ、珍しく呼ばれなかった同期メンバーの集まりだった。

「詩音、意外と元気だったよ。」

 すると、真正面の長椅子に腰掛けながら、笑顔でそう答える藤野に、俺は無意識にホッとしていた。


 成宮さんが戻ってから、蕪木はどこか不安定だった。廊下でばったりと会い、大丈夫かと聞くと、動揺したのは明らかでずっと気になっていた。

 その上、成宮さんは新規事業のメンバーに蕪木を推薦し、今まさに同じ空間で働いている。

 それにしても、あれだけ一方的に振っておきながら、平然と話せる無神経さには俺まで腹が立った。

 少しの間だけど、教育担当としていろんなことを教えてくれた、尊敬する先輩。だけど、これだけは許せなかった。成宮さんに捨てられた蕪木を、当時一番近くで見ていて、支えたのは俺だったから。


 すると、突然フッと笑い出し、真っ直ぐこちらを見ている藤野。

「須崎くん、顔怖い。」

 そう言って、微笑んでいた。

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