愛を孕む~御曹司の迸る激情~
「あっ、ごめん。」
「ううん。」
思わず自分の顔に手を当てると、眉間にシワを寄せていたことに気がついた。俺は、何かを誤魔化すようにハハッと笑い、でもすぐにスッと真顔になった。
きっと全部、気付かれている。
洞察力が鋭く、誰かが悩んでいたり落ち込んでいたりする時、真っ先に気付くようなやつ。
だから、俺の気持ちにも真っ先に気づかれた――
「詩音のこと、まだ好きなんでしょ?」
その瞬間、飲もうとした缶コーヒーを吹き出しそうになった。
「なんだよ、急に。」
少し濡れた口を手で拭いながら、あからさまに焦った。こんなにも直球で言われるとは思っていなかったから。
「あ、動揺した。」
「うるさい。」
俺は内心、心臓がバクバクするのを抑えながら、ゆっくりと深呼吸した。
「好きって、言えばいいのに。」
しかし、そう言われた瞬間、諦めたように気が抜けて、長椅子にもたれかかった。
「結婚するの知ってるだろ?もう諦めたよ。」
そして、そう言いながらボーッと天を仰ぐ。
藤野には、ずっと前から気付かれていた蕪木への想い。高瀬さんと婚約する前から、付き合う前から、俺は彼女を想っていた。