死んでもあなたに愛されたい
「額もケガしてるだろ? そっちも消毒すっから、前髪どけろ」
「えっ」
たしかに、彼の言うとおり。
鼻よりおでこのほうが損傷がひどい。
アスファルトとディープキスかまして、血がにじんだところに雨水が討ち入りして、ひどい炎症を起こしている。
が、両手で前髪をガード。
ここにきて初めて彼の指示を逆らった。
従順な猫になれなくてごめんなさい!
「何してんだ。それじゃ手当てできねぇだろ」
「お、おでこのほうは、あたしがあとで自分で……」
「なんで」
「えっと、その……」
「今やっちまったほうがいいだろ」
「そう、なんですけど……」
怒ってる? 怒ってるよね?
前髪と指の奥に見える、彼は、一切表情を変えていなかった。
ただ首をかしげ、疑問に思っている。
むやみにイライラしたりしないんですね! 寛大な心に惚れ惚れします!
あの毒親にも見習ってほしい……!
「なんか、気にしてんのか?」
「はい、そうなんです……!!」
「そこは素直なんだな」
あ、口が。
チャックの壊れた、この口が!
「何? 言ってみ?」
やさしい聞き方。
低くかすれた声が、ほろ甘く溶けていく。