死んでもあなたに愛されたい
家を出る時間になった。
スクバを持って、スニーカーを履く。
本当ならローファーがよかったけど、さすがにリュックに入らなかった。
「忘れものはない?」
「携帯と、お弁当も……うん、持ちました。大丈夫です」
「あ、俺、携帯忘れた。外で待ってろ」
「わかった! おじ様、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
扉を開けると、まばゆい日光が直撃した。
少し熱の残った空気が肌を焼く。
門扉あたりで魁運を待とうとしたら、
――プップー。
すぐ横からクラクションが鳴った。
家の前には、1台の車が停められていた。
昭和に造られたようなレトロなタイプ。
白と藍色の2トーンカラーの軽自動車。
……なじみがありすぎる。
運転席のドアが開いた。
一人の男が近づいてくる。
濃い藍色のスーツで体のほとんどを覆っているにもかかわらず、顔やら手の甲やらに数多くの傷痕を残している。
明らかに、カタギではない。
「おひさしぶりです、お嬢」
お嬢、なんて、ふつう呼ばない。
あーあ。せっかくごきげんだったのに。
いいスタートを切れそうな日に限ってこれだよ。
当分、見たくなかった。
どろどろとした毒に侵されたような、そんな色なんか。