死んでもあなたに愛されたい
「魁運! 今行く!」
汚れを落としたスニーカーを履いて、扉を開ける。
寸前。
右の手首に、なつかしい温もりが触れた。
「……父さん?」
タコのできた、分厚くて硬い手。
父さんの力加減が強まったり、弱まったり。
つられて表情筋までぎこちなくなってる。
「ひとみ……いいか? 呪いには気をつけるんだ」
「ああそのこと? 呪いなんてないよ。怖がりすぎだって」
魁運は、魁運だよ。
呪われてなんかない。
怖がる必要もない。
強気に笑えば、父さんはなんとも言えない顔をする。
ゆっくりと手が放れていく。
「じゃ、いってきます」
「ああ」
「いってらっしゃいませ」
期待いっぱい、力もいっぱいに扉を開けた。
学ラン姿の魁運が、そこにはいて。
やわらかな太陽の光がまるでスポットライトのように、彼を真っ直ぐ照らしている。
「おはよう魁運!」
「ひとみ……。はよ。1週間ぶり、だな」
「今日からまた一緒だね!」
魁運は父さんと兵吾郎に気づき、深く頭を下げた。
その姿はやっぱりちょっと、すごく、緊張してる。
愛されてるなあ、あたし。
あたしの愛も伝わってるかな。
好きだよ、と言葉があふれるよりも先に、無意識に魁運の手を握っていた。