死んでもあなたに愛されたい



すみっこで委縮していた生徒が。

固唾を呑んでいた先生が。

逃げることしか頭になかった一般客が。



周りのみんなが、必死に声を上げている。


忌み嫌い続けた、あの死神に。



魁運、あなたのために。




あたしが声を届けていたみたいに、魁運の思いも真っ直ぐ届いていた。


きっとみんな、心を奪われちゃったんだよ。



うれしいような、妬いちゃうような。

でも、やっぱり、うれしくて泣いちゃいそうな。



もっと、あなたを愛したくなる。




「いけ、死神!」

「がんばれ!!」

「勝って……!」

「永鳥さん!!」



「魁運……好き」




地響きが再開したような大きな大きな声援のなか。


愛ある小さなささやきをすくいとってくれたのか、魁運の渾身の攻撃が決まった。



敵2人が転覆し、立ち上がれなくなる。

ふと魁運があたしを見ると、ぐっと拳を掲げた。



「わああああっ!」

「勝った! 倒したんだ!」

「すげぇ! かっけぇよ死神!」

「ありがとー!!!」



感謝と賛美であふれた歓声と、盛大な拍手。

殺伐とした不安が打ち消されていく。



今日の主人公は、まちがいなく魁運で。


世界は、瞬く間に、やさしくなっていく。




「魁運……!」


「……ひとみ」




魁運にぎゅっと抱きつけば、頭を撫でられた。

短くなった髪に、甘い口づけが落とされる。


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