死んでもあなたに愛されたい
「兵吾朗くん、かっこいいよね」
「今日なんかアンニュイだよね」
「この前、掃除当番変わってくれたんだ。ほんとやさしい〜」
「あんなイケメンなのに、笑顔かわいすぎてギュンッてなる」
「あれはずるい!!」
「こーら! 授業中ですよ。夏休みまで1ヶ月を切ったからって、たるまない。私語はつつしむように」
「「はあい」」
あぁ、それで、何の話だっけ。
えー、あー……あ、そうそう、窓ガラスを割れるかどうか。
いやいや、無理無理。
考えただけ。
そんだけ。
「ねね、この問題わかる?」
机の端っこに、きれいな指がかかる。
クラス1のマドンナがひかえめに訊いてきた。
ひそめられたソプラノに、否応なしの上目遣い。
それに人当たりのよい笑顔で返すのは、もはやタチのわるいクセ。
「そこはね、こっちの公式使うんだよ」
「あ、そっか。ありがと。いつも頼っちゃってごめんね?」
「いいよいいよ。俺でよければいつでも教えるよ」
表情。口。言葉。
まぎれもなく、俺の。
なのに他人のもんみたいに、模範解答をするする出してくる。
はあーーーー、俺、きもちわりぃ。
こんなんじゃなきゃ、とっくに割ってたさ。
窓ガラス。学校のも、家のも、ぜんぶ。
俺は蝉にゃなれねぇのさ。