死んでもあなたに愛されたい
あたしは、選ばれなかった子。
劣っているほう。
だからってこの仕打ちはない。
ずっと甘んじて受け入れているつもりもない。
蝉の啼き声がした。
家の一番奥にある、子ども一人にしては広すぎる和室に、夏の終わりを知らせるように響いていく。
張り替えられた畳の上をゆっくり歩き、日本庭園さながらの庭を眺めた。
「1週間……」
父さんはそう言った。
つまり、1週間、人に会うことはない。
……ということは。
「チャーンス」
逃げ出すなら、今だ。
あわよくば夏休み中にと練りに練った脱走計画と、必要最低限の荷物を詰めこんだリュック。
……よし、完璧だ。
冷たい風が吹いた。
風の流れは、塀の抜け道に向かっていた。
死に装束のような和服のまま、ほとんど衝動的に縁側を飛び出した。
父さんへ。
あたしは自由になりに行きます。
探さないでください。ぜったい。まじで。
恨むなら、変な育て方をした自分を恨んでください。
あばよ。
――白雪 ひとみ より。