死んでもあなたに愛されたい
親父のおかげで心に余裕を持てた。
何を言われても、もう動じねぇ!
年配の男から目を逸らさず、にらみ続ける。
相手の目のほうが先に宙をさまよった。
境内を一周見渡すと、重苦しいプレッシャーを消していった。
「……ここの空気は澄んでいるな」
「え……?」
「わたしにはよくわからないが、きっと清んでもいるのだろうな」
「人柄もあるんですかね」
「ああ、かもな」
突然ほめられた……?
「しかし、スリーコンボがそろっている以上、ずっとこの空気ではなかろう」
上げて落とされた! なんなんだよ!
つかめない男だ。考えが読めない。
「今回は貴様らの勇気に免じて見逃すとするが、ウチの娘はじきに必ず返してもらう。それまでの間、せいぜいこの状態を保っておくことだな」
「お嬢に傷ひとつつけないよう、ぜひともがんばってください」
え。
ん? は……!?
上げて、下げて、引くのか!?
そりゃ読めねぇよ……。
てっきりここで戦争をおっぱじめんのかと……。
男たちは帰りも鳥居の真ん中をくぐり、拍子抜けするほどあっさり去っていった。
なんだか腑に落ちないが、ひとまずはつかの間の平和を親父と噛みしめた。
「魁運、おじ様、おはようございます……。おかえりなさぁい……」
家に帰ると、ひとみが眠たそうにしながらも出迎えてくれた。
朝っぱらから一触即発な出来事があったことをつゆほども知らない、ふにゃふにゃした寝起き姿。
俺と親父は安心感を覚え、つい破顔する。
やっぱり、どうしても、ひとみがヤクザの娘だって実感はわかない。
それこそ、初めは、蝶よ花よと育てられたかわいい妹の世話をしているような気分だった。
だけど今は……。
「ひとみ、おはよ」
「わわ!?」
寝ぐせのついた長い前髪をくしゃくしゃとかき乱すと、ひとみはくすぐったそうに頬をゆるませる。
……今は、もう、妹みたいじゃない。
『帰ろう?』
『汚くないよ。あたしは好き』
俺が、俺の手で、守ってやりたい。
できることなら、ずっと。
「ただいま」