死んでもあなたに愛されたい
「ほんと、お似合い」
「あのふたり、ふつうじゃないし」
「でも影野はあの女と仲良かったろ?」
「やめてよ。そんなんじゃないから」
「――ひとみ、もう聞くな」
ふわり、と両耳に温もりが降った。
グレーの髪を巻きこんで、耳の表面にやさしい圧がかかる。
待って。待って待って!
何この状態!?
魁運の手が! あたしの耳に! 当たって……!
待って。無理。
いきなりこんなの、心の準備できてない。
たまご焼きの「あ~~ん」のあとに、至近距離で耳をふさぐのはあかん!!
「か、かいう……」
「これで聞こえねぇだろ?」
テンションぶち上げなあたしとは対照的に、彼の顔は心苦しそうにくもっていた。
もしかして。
あたしがから揚げを落っことして、身悶えしてたのを、陰口に悲しんでると思ってる……?
あたしの耳を手のひらで閉ざして、守ってくれてるんだ。
全然聞こえてくるけど!
周りの嘲笑がばんばん入ってくるけども!
魁運のほうこそ悲しんでるはずなのに、あたしのことを優先してくれるところ好き! 大好き!
魁運、かっこいいよ!!!
その形容詞に、どれほどのいいところが凝縮されていることか!
「あいつら何してんの?」
「頭、押さえつけてる……?」
「サイテー」
「怖っ」
分厚い手のひらを追い越して聞こえてくる、トゲのある雑音の発信源は、魁運のいいところをひとつも知らないんだろうな。
腐り果てた評価なのは気に食わない。
だけど、その節穴を後生も大切にしておくがいいさ。
ふはは! これでライバルが減る!