死んでもあなたに愛されたい



「ほんと、お似合い」

「あのふたり、ふつうじゃないし」

「でも影野はあの女と仲良かったろ?」

「やめてよ。そんなんじゃないから」




「――ひとみ、もう聞くな」




ふわり、と両耳に温もりが降った。

グレーの髪を巻きこんで、耳の表面にやさしい圧がかかる。



待って。待って待って!

何この状態!?


魁運の手が! あたしの耳に! 当たって……!


待って。無理。
いきなりこんなの、心の準備できてない。


たまご焼きの「あ~~ん」のあとに、至近距離で耳をふさぐのはあかん!!




「か、かいう……」


「これで聞こえねぇだろ?」




テンションぶち上げなあたしとは対照的に、彼の顔は心苦しそうにくもっていた。


もしかして。

あたしがから揚げを落っことして、身悶えしてたのを、陰口に悲しんでると思ってる……?



あたしの耳を手のひらで閉ざして、守ってくれてるんだ。



全然聞こえてくるけど!

周りの嘲笑がばんばん入ってくるけども!


魁運のほうこそ悲しんでるはずなのに、あたしのことを優先してくれるところ好き! 大好き!



魁運、かっこいいよ!!!

その形容詞に、どれほどのいいところが凝縮されていることか!



「あいつら何してんの?」

「頭、押さえつけてる……?」

「サイテー」

「怖っ」



分厚い手のひらを追い越して聞こえてくる、トゲのある雑音の発信源は、魁運のいいところをひとつも知らないんだろうな。


腐り果てた評価なのは気に食わない。

だけど、その節穴を後生も大切にしておくがいいさ。


ふはは! これでライバルが減る!


< 74 / 329 >

この作品をシェア

pagetop