死んでもあなたに愛されたい



居間に案内され、「ここで待ってろ」と言われ、畳の上で正座で待機していた。


そして、数分もせず彼が戻ってきたと思ったら。

こういう状況になった、というわけ。



彼の手にあったのは、タオルだけではなく、救急箱も。


ときめきのあまり、思考回路を一旦閉じ切ってしまった。


この世に、これほどすてきな人がいるなんて……!

人生、捨てたもんじゃないな。




「どうして助けてくださったんですか……?」




彼以外は見て見ぬふりだった。


はっ! まさか!

彼も、あたしに、ひと目惚れを!?




「行き倒れてるように見えたから」


「人命救助!!」




ちがった! ひと目惚れじゃなかった!

かんちがい! 恥ずかしい!


でも困ってる人を見過ごさないところ、好きです!




「全然大丈夫そうだったけどな」


「いえ! 困ってました! 大いに行き倒れかけてました!」


「……なんでちょっと前のめりなんだよ」




頭から彼の手が離れる。


水分の減った長い前髪の隙間から、彼の呆れ笑いを堪能する。



目つきわるいし、あんまり表情が動かないし、愛想もないけど。

だからこそ、そういう人の笑顔はどういう意味合いであれ、胸がきゅうっとなる。



あなたは、ギャップをいくつお持ちなんですか!


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