策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
痛みで朦朧とする意識の中、日葵は何とか起き上がり、スマホを勇気から受け取った。

しかし、スマホは充電が切れており、すぐには使えそうになかった。

あいにく充電器は寝室だ。

今取りに行く元気はない。

倒れる前に感じた激痛は消え、波のように痛みが押し寄せてはいつしか遠ざかっていく。

勇気に差し出されたペットボトルのミネラルウォーターを飲み、スマホの時計を確認するとまだ15分間隔のようだ。

「座っていたら大丈夫みたい。心配かけてごめんね。びっくりしたでしょう?」

「ううん。辛いのは日葵さんと赤ちゃんだよね?僕はお兄さんだから、二人を守りたいんだ」

「バゥ!」

「・・スンスン・・・」

陽生も両親もいない空間に、抗えようもない孤独と不安を感じていたが、可愛い騎士達に支えられて暖かい気持ちに包まれていた。

゛さあ、これからどうしようかな゛

病院には陣痛が10分間隔になったら電話して来てくださいと指導されていた。

初産婦は陣痛が来ても、ある程度時間が経たなければ赤ちゃんは産まれないと言われているし、実際、母も親戚も知人も同じような経験をしていた。

「勇気くん、重ね重ね悪いんだけど、台所に素麺ゆがいてるの。お産の前に食べておきたいから持ってきてくれるかな?」

リビングのソファに横になった日葵は、空腹とは言い難かったが、お腹をすかせているであろう勇気を気遣ってそう言った。

「うん、日葵さん。待っててね。おつゆと薬味を持ってくればいいんだよね。僕に任せて」

勇気はまたしても駿足で駆けていった。
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