策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「はい。あーんして」

「ゆ、勇気くん。私、自分で食べられるよ」

「ダーメ。お口開けてくれなきゃ、僕、すねちゃうよ?」

陽生に似たイケメン少年の拗ねた微笑みに、日葵は一瞬、ドキっとした。

゛こんな美少年にかしずかれたら一瞬でノックアウトだよ゛

日葵は苦笑しながら、勇気に言われるがまま口を開けた。

「美味しい・・・」

「本当に?じゃあもっと食べさせてあげるね」

正直、あまりお腹は空いていないのだが、日葵は甲斐甲斐しくお世話をしてくれる勇気の気持ちをくんで、黙々と素麺を食べた。

「ありがとう、もうお腹いっぱいだよ。元気に赤ちゃんが産めそう」

「えー?!まだダメだよ。兄さんが帰ってきてからでないと。あ、僕、スマホ持ってくるよ。兄さんに色々報告しろって言われてたんだった」

一連の騒動で、バスルームにスマホを置いたままにしていたのだろう。

日葵はクスリと笑ったが、人のことは言えない。

充電が切れているのだ。

連絡のつかない状況に、陽生の焦りと怒りの表情が目に浮かぶ。

「柊くん、充電器、わかるかな?」

「バゥ!」

柊はようやく自分にも仕事が渡ったと、喜んで尻尾を振りながら寝室へ向かって行った。

警察犬の柊は、物探し、人探しのプロだ。

充電器の場所ぐらい把握している。

日葵はホッとしながら、足元に丸まっている毬ちゃんをそっと抱えあげ頭を撫でた。
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