策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「お腹、痛い・・・」

思わず力みそうになる日葵に

「まだ力んじゃダメだ。今、柊が高森先生を呼びに行っている。それまで一緒にいきみを逃がそう」

陽生に励まされた日葵は、陽生の腕を強く握って、必死でいきみを逃がした。

高森先生は60代の女性医師。

真島家から徒歩10分のところで産婦人科を開業している。

柊の足なら遅くとも3分といったところか・・・。

しかし、柊が無事に産婦人科にたどり着いたからといって、犬である柊を産婦人科のスタッフが施設内に入れてくれるとは思えない・・・。

゛素直に救急車を呼んでおけば良かったのではないだろうか・・・゛

様々な考えが浮かんでは通りすぎていく現状は、まだ日葵に余裕があることを示すようだった。

一方の陽生は、冷静に日葵につかまれた腕と反対の手でスマホを操作していた。

「・・・葛城か? 久しぶり・・・って今はそれどころじゃないんだ。すまん。俺の嫁が自宅で産気付いて頭が出かかってるんだ。・・・結婚式に呼ばれなかっただって?・・・悪かったよ・・・とにかく今は俺にお産の段取りを指示してほしいんだ。このままだと墜落分娩になるかもしれない・・・」

゛葛城?゛

初めて聞く名前に、日葵は首を傾げたが、押し寄せる痛みにより、そんな疑問は霧散した。

お腹の赤ちゃんの頭が、ぐいぐいと日葵の恥骨を押し広げていくのがわかる。

「日葵、いきみを逃せるか?」

「無理・・・」

陽生の電話の相手はどうやら産婦人科の医師らしい。

日葵には話の内容はわからないが、電話越しにでも専門家に手助けをしてもらえることはかなりの心理的なサポートになった。

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