策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「日葵・・・。代わってやれなくてごめんな。痛いよな」

「陽生さんも・・・強く腕を掴んでごめんね、痛いよね」

こんなときにさえも相手を気遣う日葵に、陽生は愛しさを感じずにはいられなかった。

「兄さん、持ってきたよ」

右手に凧糸、左手にバスタオルを持った勇気が陽生に駆け寄る。

「まあ、素敵な執事さんね。・・・凧糸なんてよく持ってたわね?」

高森先生の言葉に

「ええ、友人の産婦人科医から、もしも先生の到着までに子供が生まれた時には、この凧糸でへその緒を縛れと言われて・・・。凧糸は、料理上手な日葵が焼き豚を作ると言って買ってきたものです」

いつの間にか通話を切って、何気に惚気を混ぜてくる陽生の言葉に、

゛お料理サイトを見て思い付きで作った焼き豚の凧糸が役に立つなんて・・・゛

と日葵は痛みの中、苦笑した。

「それはそれは・・・。日葵ちゃん、心強い味方がたくさんいて良かったわね。ご自慢の凧糸は今回活躍の場を失ったけれど」

助産師の水流さんがお茶目にウインクしながら産湯の準備を終えてリビングに戻ってきた。

「これから先は、結構、子供さんには衝撃的な場面よ。立ち合いする家族もいるけど、トラウマになることもあるわ。隣の部屋で待ってる?」

任された役目を果たし、柊の体に抱きついて日葵を見つめていた勇気に水流助産師が言った。
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