策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「僕も抱っこしていい?兄さん」

間違いなく今回の功労者である勇気が、遠慮がちに陽生に尋ねていた。

「落とすなよ?」

恐る恐るお姫様を受けとる勇気。

その瞳はすっかりお兄さん・・・いや、姪を溺愛する叔父さん?だった。

「名前は?お姫様じゃ呼びにくいよ」

「美暖(みはる)」

日葵と陽生に共通する名前の由来。

それは゛太陽゛だ。

太陽をベースに考えていた名前は

男の子なら暖真(はるま)、女の子なら美暖(みはる)だった。

お腹にいる間、敢えて性別は聞かなかった。

どちらでも大切なことには変わらないから。

だからこそ、あらかじめ決めていた名前もすっかり忘れていたのだが・・・

こうして改めてみると、彼女にぴったりの名前だと思う。

色白でピンクの頬、ムチムチした輪郭は、先ほどのグロテスクな装い?からは信じられないくらい赤ん坊らしく変化していた。

「美暖ちゃん、可愛いなあ」

スリスリと頬を寄せる勇気。

そのほのぼのとした風景の中、日葵は突然、自分が置かれている状況が気になり始めた。

血まみれだったはずのソファは大きな布がかけられてはいるが・・・。

゛もう使い物にならないな゛

そう、日葵は思いながらも、不思議と勿体ないとは思わなかった。

小学生である勇気もその事を気に止めている様子はない。

ただただ、勇気は美暖を愛でているのみだ。

゛勇気くんが実の弟とはいえ、血を分けた娘のことだもの。溺愛する様子を見たら、陽生さん、やきもちを妬いて美暖を取り上げちゃうよね゛

日葵の脳裏にそんな思考が頭をよぎったのだが、意外にも陽生は平然としている。

それどころか微笑ましく勇気の頭を撫でているではないか。

゛えっ、娘では溺愛の食指が動かないの?それとも、父親の自覚が芽生えて少しは冷静になったとか・・・?゛

父親になれば、子供(娘ならいっそう)に関心が移り、日葵への執着は減るのではないかと期待していた日葵だったが、

平然としている陽生に、なんだか肩透かしを食らった感じがして、日葵は動揺と少しの期待を隠せずにいた。

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