策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「君たちは今、何をしていたんだろうね?」

校長先生が、恵比寿顔を般若にして女子達に近づいていく。

「えっ、こ、これは、一年生がいらなくなったシューズを捨ててくださいって頼んできたから捨てたんです」

「ほう、この新品の靴を、かね」

スポーツブランドの子供用の靴はどうみても新品だった。

苦しい言い訳である。

「私達は一部始終を見聞きしていたんだよ。言い逃れも、弁解も許されない」

「そ、そんな・・・しょ、証拠は?見たって言っても、みんなが納得する証拠はないはずです」

開き直る女子児童の声に虫酸が走る。

呆れて物が言えない。

「生徒の安全を守るために監視カメラを仕掛けてある。証拠ならそこに残っているだろうね」

玲音達が通う小学校は、有名私立の小・中・高一貫校で、裕福な家庭の子供が多い。

学校を選ぶ際に、安全面を重視する親たちも多い。

不法侵入や誘拐、無差別の襲撃といったニュースが報道される中、小学校でも何らかの対策は取っているのだ。

「そんなの聞いてない」

「プライバシーの侵害じゃん」

反抗期の女子らしい本音が、校長先生への丁寧な態度を崩していく。

「親御さん達は知っているよ。子供たちを怖がらせないためにも敢えて公表はしていないが隠しているわけでもない」

校長先生は、大人で冷静だ。

女子達は反論すらできない。

「当校でいじめがあったという事実は由々しき事態だ。君達は午後の授業に出なくてもいい。私についてきなさい」

いじめに荷担した女子は全部で五名。

泣きそうな顔をしている者、膨れっ面をしている者、飄々としている者と様々だった。

5人は、ポケットに手を入れたまま自分達を見つめている玲音をチラッと見た。

彼らはその表情を見て驚きを隠せない。

いつもニコニコとして、穏やかで、自己主張の少ない玲音。

しかし、今目の前にいる玲音は、意地悪く口角を上げ冷淡な微笑みを浮かべる、冷たい美少年であった。
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