策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「さて、横道に逸れましたが、理事長として、児童、生徒の親族としてお話しさせて頂きたい」

孝明はこれまでの申し訳なさそうな表情を封印すると、真剣な表情をして保護者と教員に向き合った。

「学校は勉強をするところです。もちろん他人との共同生活で、倫理観や道徳、人間関係、規則を学ぶところでもある」

真島本家を取り仕切り、H県を代表する大地主、そして゛近畿のドン゛と恐れられる実力者。

「これまで、孫を当校に通わせているよしみでスポンサーおよび理事長の役どころも引き受けさせて頂いておりました。

しかし、今回のようないじめの被害に大切な孫が巻き込まれるなんて信じ固いし耐え難い。

そんな目に合わせるために、私は当校に経済支援をし、理事長を引き受けたわけではないのですよ」

眉をひそめる孝明は、先ほどとは打って変わって強気な姿勢を示していた。

保護者だけでなく、教員の顔色も変わった。

真島家の支援の撤退は、すなわち学園の衰退を意味する。

ということは、必然的に我が子の教育環境の悪化、しいては進学先の選択肢が減ることにも繋がるのだと、保護者達は瞬時に嗅ぎとったのである。

「そ、そこで提案があります」

校長がおもむろに立ち上がった。

「皆様のご息女、ご子息におかれましては、いじめをするなどもっての外、だとおっしゃる方も多いかと存じます」

戸惑いながらも、頷き周囲を見渡す保護者達。

「そこで、いじめを行った児童の処遇ですが、程度の差は関係なく何らかのペナルティをつけさせて頂こうかと思います」

ざわつく保護者達。

「そこには一定の基準が必要かと存じます。いくら子供とはいえ、人を傷つけ陥れるのは犯罪です。学園にパワハラやモラハラの相談窓口を設け、必要時には顧問弁護士に相談できるシステムを導入するつもりです」

学校はいわば社会の縮図。

牽制し合う大人たちには都合の悪いこともあるかもしれないが、自分達の子供が被害者になったときには安心のシステムといえる。

加害者になった場合には・・・

家庭での躾や教育が鍵となることは否めないだろう。

だが、ベナルティを理由に、子供たちを諌める言い訳にはなる。

規律の厳しい学校となれば、家庭での情操教育に自信のない家庭の子供は入学してこないだろうし、入学してきても自然に淘汰されるはずだ。

保護者たちは、提示された案のデメリットよりもメリットの多さを評価した。

そして、加害者の親5人以外の満場一致で、校長先生の提案した案は決議されたのである。

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