海の向こうで
「おはよ」
眠そうな声が後ろから聞こえる。
「わああああっ!」
私は分かりやすく飛び上がった。
「なんだよ、そこまで驚くことか?」
ちょっと傷ついたように飛鳥が言った。
「いや、なんでもないよ?」
と私は平然なフリをする。
だって…飛鳥の顔見られないもん。
さっきキスマに気づいたばっかだよ…?
「海華、昨日のこと覚えてるか?」
…は?
飛鳥に想像してもみないことを言われ、目を丸くする。
「俺、酒入っちゃったみたいで全く覚えてないんだけど」
「え、どこから…」
「えー…っと、確かお酒を飲む前、嶺夜が下行くってむすーっとした顔で言ったのが最後の記憶」
まじですかい。
じゃあこのキスマをつけたのかは全く覚えてないってことね。
「あっそ。飛鳥ずっと寝てたから、別に特に記憶なくてもおかしくないと思うよ!」
「いやなんでお前怒ってるんだよ…」
と飛鳥が呆れた声を出しているのをよそに、私はお花を摘みに行った。
***
トイレで流石にあれは良くなかったな、と思った。
…うん。なんか、キレちゃってごめん。
そう言おう。
と思ってドアを開けると、辺りはしんとしていた。