海の向こうで
ふいに、
「わーーーーーーーー」
と、飛鳥が叫ぶ。
きっと、その「わー」には沢山の意味がこもっているのだろう。
日向ちゃんへ、お父さんへ、お母さんへ。
それらは、私には分からないことばかりかもしれない。
私はふたりの両親に会ったことがないし、飛鳥に会ったのだってそこまで日が経ってないと思う。
飛鳥と会って、多分半年…ちょいくらいは経ったのかな。
あっという間だった気がする。
私たちの関わりはまだそんなもん。
けど、飛鳥の抱えているものが、少しでも私にも背負えたらいいな。
「…ありがとう」
「ううん、私は何もしてないよ」
ただ叫べって言ったくらいだし。
「ん。でも、俺には助けになったから」
飛鳥の言葉が嬉しい。
私は飛鳥に比べたら、よっぽど楽な人生を送ってきたのかもしれない。
お父さんやお母さんが当たり前にいて、当たり前のようにご飯を作ってくれて、そして当たり前のように学校に送り出してくれる。
でも、飛鳥にはそれがない。日向ちゃんの方が先に出て行くのか、それとも飛鳥が先に出るのかは分からないけれど、自分が仕事に行く時に送りだしてくれる親がいない。ご飯だって掃除だって洗濯だって買い物だって、これ以外のことだってすべて自分でしなければならない。まだ幼い日向ちゃんを、ひとりで支えていかなければならない。
私にとってごくごく当たり前のことが、当たり前じゃない。
だから私は、今いるこの環境に感謝しなきゃな。